「タワマン」と聞いて、どんな住まいを思い浮かべるでしょうか。高層階からの夜景、エントランスのコンシェルジュ、共用ラウンジ——多くの方が高級住宅のイメージを持たれると思います。
しかし実際には、都営住宅や住宅供給公社の賃貸住宅にも超高層の物件が存在します。タワーマンションという言葉が指す範囲は、私たちが漠然と抱いているイメージよりもずっと広いのです。
この記事では、タワマンの定義をあらためて整理したうえで、公的な事業主体が手がける超高層住宅の実情を紹介します。そのうえで、購入や賃貸を検討する際にどこを見るべきかを考えていきます。
コワニ

タワマン=高級住宅というイメージはどこから来たのか
分譲価格と眺望が生んだステータス性
タワマンが高級住宅と結びつけられる最大の理由は、価格帯にあります。都心部や湾岸エリアで供給される超高層の分譲マンションは、同じ広さの低層物件よりも高い価格がつくことが珍しくありません。
背景には、建築コストの構造があります。超高層の建物は基礎工事や構造補強、防災設備への投資が必要で、階数が上がるほど工事の難易度と費用が増していきます。さらに再開発区域の一等地に建つケースが多く、土地の取得費用そのものが高額です。
加えて、高層階の眺望は他の住戸では代替できません。同じ建物のなかでも階数によって価格差が生まれる仕組みが、「上に住むこと」に価値があるという感覚を強めてきました。この希少性が、タワマンをステータスの象徴として位置づけてきたと言えます。
メディアや広告が強化した「タワマン像」
もうひとつ見逃せないのが、情報の伝わり方です。ドラマや雑誌の特集に登場するタワマンは、たいてい豪華な共用施設を備えた住まいとして描かれます。分譲時のパンフレットやモデルルームも、当然ながら魅力を最大限に伝える設計になっています。
一方で、公的な事業主体が建てた超高層住宅が話題になる機会は多くありません。結果として、タワマン=高級というイメージだけが独り歩きしている面があります。
そもそもタワマンの定義とは
高さ60メートル以上・おおむね20階建て以上が業界の共通見解
不動産業界や住宅業界では、タワーマンションを「高さ60メートル以上、おおむね20階建て以上の超高層住宅」として扱うのが一般的です。
この60メートルという数字には根拠があります。住宅の階高(1フロアあたりの高さ)はおおよそ3メートルが標準とされているため、20階建てであれば単純計算で約60メートルに達します。つまり「20階建て以上」と「60メートル以上」は、ほぼ同じ基準を別の角度から言い換えたものです。
「タワーマンション」自体に法的な定義はありません
ここで押さえておきたいのは、「タワーマンション」という呼び名そのものには法律上の定義がないという点です。何階以上ならタワマンと名乗ってよい、という決まりは存在しません。
ただし建築基準法には、これと近い区分があります。同法第20条第1項第一号では、高さ60メートルを超える建築物を別枠で扱い、地震波を入力して建物の揺れを時間の経過とともに再現する「時刻歴応答解析」などによって安全性を確認し、国土交通大臣の認定を受けることを求めています。
業界の目安が「60メートル以上」、法律上の区分が「60メートル超」と、わずかにずれている点は覚えておくとよいでしょう。物件を検討する際は、名称のイメージではなく、実際の階数・高さ・総戸数といった具体的な数値で判断することが大切です。
中央にエレベーターや配管を集約する構造上の特徴
超高層住宅には、構造面での共通した特徴もあります。建物の中央部にエレベーター、階段、配管スペースなどをまとめて配置する設計が多く採用されている点です。
この構造にすることで建物の重心が安定し、地震や強風に対する耐性を確保しやすくなります。その結果、階段や共用廊下が建物の内側に収まる「内階段」型になりやすいのが特徴です。外廊下の団地型マンションとは外観の印象が大きく異なるため、この見た目の違いをタワマンの条件と捉えている方もいらっしゃると思います。


公営・公社にもタワマンはあります
港区に建つ20階建ての都営住宅
タワマンが民間の高級分譲物件に限られないことを示す例が、東京都港区北青山にある「都営北青山三丁目アパート」です。地上20階、高さ約70メートル、総戸数302戸。2017年3月に着工し、2019年9月に竣工、同年12月から入居が始まりました。
もともとこの場所には、25棟586戸からなる4階建ての「都営青山北町アパート」が広がっていました。築60年近くが経ち老朽化と旧耐震基準への対応が課題となったことから、超高層化して建て替えられたものです。低層部には保育園と児童館が入っています。
公営住宅法第1条は、公営住宅の目的を「住宅に困窮する低額所得者に対して低廉な家賃で賃貸すること」と定めています。その公営住宅が表参道にほど近い一等地に超高層の形で建っているという事実は、「タワマン=富裕層の住まい」という図式が成り立たないことを端的に示しています。
都営のタワー型は2000年前後から存在します
なお、超高層の都営住宅は北青山が最初ではありません。荒川区南千住には2000年竣工の22階建て、江東区潮見には2001年竣工の物件があり、2000年前後から各地で建てられてきました。決して例外的な一棟ではないのです。
公社の「コーシャタワー」「トミンタワー」
東京都住宅供給公社も、タワー型の大型団地に「コーシャタワー」「トミンタワー」という名称を付けて供給しています。コーシャタワー小松川は30階建て・高さ93メートル、トミンタワー東雲は36階建て・高さ130メートル、トミンタワー台場一番街は32階建て・高さ111メートルという規模です。
同公社で最初の超高層賃貸住宅は、IHIの工場跡地を再開発した「大川端リバーシティ21」内に1991年3月に完成しています。公的セクターによる超高層住宅の供給には、すでに30年以上の蓄積があるということです。



なぜ公的セクターもタワマンを建てるのか
限られた土地で必要な戸数を確保する合理性
公的な事業主体が超高層を選ぶ理由は、きわめて実務的です。都市部では利用できる土地が限られており、新たにまとまった用地を確保するのは容易ではありません。
先ほどの北青山の例が分かりやすいと思います。東京都の説明によれば、都営住宅の建て替えでは14階建てまでの片廊下型が一般的ですが、この計画では土地のポテンシャルを生かすために20階建てのタワー型を採用しました。その結果、必要な戸数を確保しながら住宅を従前の約4分の1(約1ヘクタール)の敷地に集約でき、残る約3ヘクタールをまちづくりのための創出用地として活用できたのです。
老朽化した公営住宅の建て替えでは、この「集約して土地を生み出す」という発想が繰り返し使われています。
1997年の規制緩和が高層化を後押ししました
もうひとつの背景が、制度の変化です。1997年、容積率の上限を600%まで引き上げ日影規制を適用除外とする「高層住居誘導地区」が創設されました。あわせて建築基準法が改正され、廊下や階段などを容積率の計算から除外できるようになっています。
この緩和によって都市再開発が後押しされ、東京都心や湾岸地域を中心に超高層マンションの建設が急増しました。都心回帰と呼ばれる現象も、この流れのなかで起きています。公的住宅の高層化も、こうした都市計画の潮流と切り離せません。


タワマン50年の歴史から見えること
1976年、埼玉県与野市の「与野ハウス」が国内初
日本で最初のタワーマンションとされるのは、1976年1月に竣工した「与野ハウス」です。住友不動産が埼玉県与野市(現在のさいたま市中央区)に建てた21階建て、高さ66メートル、総戸数463戸の分譲マンションで、4棟構成のうち中央にタワー棟がそびえる構成になっています。東京都心ではなく埼玉県から始まったという点は、意外に感じられるかもしれません。
以来、およそ半世紀が経過しました。初期に建てられた物件は築50年に近づき、大規模修繕や建て替え、住民の高齢化といった課題に直面する時期に入っています。
目新しさは薄れても人気が続く理由
供給が積み重なっても人気が衰えないのは、タワマンが提供する価値が眺望だけではないためです。駅直結や再開発区域内という立地の良さ、共用施設の充実、セキュリティ体制といった要素が支持されています。同時に、「高層階に住んでいる」という感覚が生む満足感も無視できません。
「高級かどうか」ではなく何を基準に選ぶべきか
立地・管理体制・修繕積立金を確認する
ここまで見てきたように、タワマンという呼び名は住まいの質を保証するものではありません。検討時に確認すべきなのは、次のような具体的な項目です。
立地は最も基本的な判断材料です。駅からの距離、周辺の生活利便施設、将来の再開発計画などを確認します。同じ建物でも、周辺環境の変化によって住み心地は変わります。
管理体制も重要です。管理会社の対応品質、管理組合の運営状況、総会の議事録などから、建物が適切に維持されているかを読み取れます。戸数の多いタワマンでは、合意形成の難しさが将来の修繕に影響することもあります。
修繕積立金の水準と長期修繕計画は、特に慎重に確認したい部分です。国土交通省の「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」は、地上20階以上の超高層マンションについて、外壁などの修繕に特殊な足場が必要になることや共用部分の占める割合が高くなることを挙げ、修繕工事費が増大する傾向にあると指摘しています。そのうえで、20階未満とは分けた目安額を示しています。積立額が不足していれば、将来の一時金負担につながります。



眺望や階数だけで判断しないための視点
高層階を選ぶ際は、日常生活での実感も想像してみてください。朝の通勤時間帯にエレベーターの待ち時間が長くなること、強風時の揺れ、停電時の移動など、高さゆえの制約は確かに存在します。
また、眺望は永続的な価値ではありません。近隣に同規模の建物が建てば、購入時に前提としていた景色が変わる可能性があります。周辺の用途地域や高さ制限を調べておくと、リスクを事前に把握できます。
「何階に住むか」よりも「その住戸で毎日どう過ごすか」を軸に考えることが、後悔の少ない選択につながります。


まとめ:タワマンは価格帯も事業主体も多様な住まいです
タワーマンションは、高さ60メートル以上・おおむね20階建て以上という業界の目安こそあるものの、法的な定義を持たない言葉です。そして港区の都営住宅や公社のタワー型賃貸のように、民間の高級分譲以外にも超高層住宅は数多く存在します。
1976年の与野ハウスから約50年、タワマンは特別な存在から都市の標準的な選択肢のひとつへと変わりました。だからこそ、「タワマンだから」という理由で価値を判断するのではなく、立地・管理体制・修繕計画といった個別の条件を見極める姿勢が求められます。
住まい選びで大切なのは、建物の高さではなく、そこで送る暮らしの質です。イメージにとらわれず、ご自身の生活に合った条件を一つひとつ確認していきましょう。
参考にした主な資料
- 国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」(平成23年4月策定/令和6年6月改定)
- 公営住宅法 第1条
- 建築基準法 第20条第1項第一号
- 東京都技術会議「創出用地を活用した北青山三丁目地区まちづくりプロジェクト」
- 東京都住宅供給公社 物件情報








