「東京で子育てをしたいけれど、住宅の価格が高すぎて手が届かない」。そう感じている方は少なくないはずです。そんな家庭がいま現実的な選択肢として選んでいるのが、埼玉県です。
都心へのアクセスを保ちながら、住まいにかかる費用を抑えられる。この「ちょうどよさ」が、共働きの子育て世代を引き寄せています。
ただし、埼玉ならどこでもよいというわけではありません。エリアによって通勤の負担も、将来の資産価値も大きく変わります。この記事では公的なデータをもとに、埼玉がベッドタウンとして選ばれる理由と、住まいを決める前に知っておきたい注意点を整理します。
コワニ

埼玉が子育て世代に選ばれる理由
都心へのアクセスの良さ
埼玉県の南部には、東京都心へ直通する鉄道路線が何本も走っています。JR京浜東北線、埼京線、湘南新宿ライン、上野東京ライン、東武東上線、東武スカイツリーライン、西武池袋線、東京メトロ有楽町線・副都心線などです。


特に大きいのは、乗り換えなしで都心の主要ターミナルへ出られる路線が多いことです。大宮駅からは上野東京ラインが上野・東京方面へ直通し、東京駅までの所要時間は30分台が目安となります。川口駅からは京浜東北線1本で、上野駅までおよそ15分から20分、東京駅までおよそ25分から30分です。和光市駅からは東京メトロ副都心線・有楽町線が直通しており、池袋や永田町方面へ乗り換えなしでアクセスできます。
朝の通勤時間が読みやすいことは、保育園の送り迎えがある家庭にとって想像以上に重要です。「乗り換え1回減らせるかどうか」で、毎日の余裕はまったく違ってきます。
東京都心と比較した物件価格・家賃相場の手頃さ
埼玉が選ばれる最大の理由は、やはり価格です。
不動産経済研究所の調査によると、2025年度に首都圏で発売された新築分譲マンションの1戸あたり平均価格は9,383万円でした。エリア別に見ると、東京23区が1億3,784万円、東京都下が6,823万円、神奈川県が7,481万円、千葉県が6,828万円、そして埼玉県が6,306万円となっています。
つまり2025年度の実績では、埼玉県が調査対象エリアのなかで最も低い水準でした。東京23区の平均と比べると、半分以下にとどまります。1平方メートルあたりの単価で見ても、埼玉県は95.1万円で、東京23区の214.3万円とは大きな開きがあります。
ただし、この順位は集計期間によって入れ替わります。同じ調査でも2025年の暦年ベースでは千葉県が5,842万円、埼玉県が6,420万円と逆転していました。平均価格はその期間に発売された物件の内容に左右されるため、単一期間の数字だけで判断しないことが大切です。
同じ予算でも、埼玉なら部屋数を1つ増やせる、あるいは駅からの距離を縮められる。子ども部屋を確保したい世帯にとって、この差は決定的です。



子育て支援・教育環境の充実度
埼玉県には、県全域で使える子育て家庭向けの優待制度「パパ・ママ応援ショップ」があります。18歳に達して次の3月31日を迎えるまでの子ども、または妊娠中の方がいる家庭が対象で、優待カードを協賛店で提示すると割引などのサービスを受けられる仕組みです。子どもが3人以上いる家庭を対象とした「多子世帯応援ショップ」も併せて実施されています。
一方、子ども医療費の助成などは市町村ごとに内容が異なります。対象年齢や自己負担の有無に差があるため、候補エリアが絞れてきた段階で、各自治体の公式サイトを確認しておくと安心です。
保育の受け皿づくりも進んでいます。埼玉県によると、2025年4月1日時点の県内の保育所等の利用児童数は13万7,664人で、前年から1,422人増加しました。待機児童がゼロの自治体は42市町村にのぼります。
住宅地としての歴史が長い分、公園や図書館、児童館といった生活インフラが整っているエリアが多いことも、埼玉の強みです。


子育て世代に人気の埼玉エリア
さいたま市(大宮・浦和・美園エリア)
県内で最も人気が高いのが、さいたま市です。
大宮は新幹線を含む多数の路線が集まる交通の要衝です。さいたま市は「大宮駅グランドセントラルステーション化構想」を掲げ、駅前広場の整備や周辺のまちづくり、駅機能の高度化を一体で進めています。浦和は伝統的に教育熱心な家庭が集まるエリアとして知られ、学習環境を重視する世帯からの評価が高い地域です。
さいたま市の保育環境も注目に値します。同市の発表によると、2026年4月の利用申込者数は3万1,695人と過去最多を更新しましたが、受け皿の整備を進めた結果、待機児童数は5年連続でゼロとなりました。申込みが増えても入所できる体制が維持されている点は、共働き世帯にとって心強い材料です。
埼玉高速鉄道の浦和美園駅周辺では、「みそのウイングシティ」の名称で大規模な土地区画整理事業が進んでいます。さいたま市が副都心の一つに位置づけるエリアで、計画的に整備された街並みと比較的新しい住宅が多いことが特徴です。
川口市・戸田市
都心への近さを最優先するなら、川口市と戸田市が候補になります。
川口市はJR京浜東北線1本で上野・東京方面へ出られる立地です。荒川を挟んで東京都と接しており、地理的には「東京都心の隣」といえます。駅周辺には高層マンションが立ち並び、都心通勤者向けの住宅供給が続いています。
戸田市はJR埼京線が通り、新宿・渋谷方面へのアクセスに優れています。荒川沿いの広い河川敷や公園があり、子どもを遊ばせる場所に困りにくい環境です。
いずれも都心通勤の利便性が高い分、県内では価格が高めに推移する傾向があります。
和光市・朝霞市など県南西部
東武東上線と東京メトロが乗り入れる和光市、朝霞市、志木市、新座市といった県南西部も、根強い人気があります。
和光市駅は東武東上線に加えて東京メトロ有楽町線・副都心線の起点となっており、池袋・新宿三丁目・渋谷方面へ乗り換えなしで向かえます。都心のオフィス街に通勤する世帯にとって、この直通性は大きな価値を持ちます。
このエリアは、武蔵野台地の北端にあたる高台と、荒川や新河岸川沿いの低地が入り混じっています。同じ市内でも場所によって地形が異なるため、ハザードマップで浸水想定を確認しておくことが欠かせません。台地と低地の境目には坂道もあり、ベビーカーでの移動を想定するなら現地を歩いておきたいところです。
埼玉でベッドタウン生活を送る際の注意点
通勤ラッシュ・交通混雑のリスク
価格の手頃さと引き換えに向き合うことになるのが、通勤の混雑です。
国土交通省の調査によると、2024年度における東京圏の主要区間の平均混雑率は139%でした。前年度の136%から3ポイント上昇しており、コロナ禍で緩んだラッシュが再び戻りつつあることがわかります。
なかでも埼玉方面から都心へ向かう路線は、高い数値が並びます。同省が路線ごとの最混雑区間をまとめた資料によると、JR埼京線の板橋駅から池袋駅の区間は163%、JR京浜東北線の川口駅から赤羽駅の区間は156%でした。
国土交通省が示す混雑率の目安では、150%が新聞を広げて楽に読める状態、180%が折りたたむなど無理をすれば新聞を読める状態とされています。埼玉方面の主要路線は、ちょうどこの中間にあたる水準です。
毎日往復1時間半を満員電車で過ごすのか、それとも30分で済むのか。10年、20年と積み重なると、家族と過ごせる時間には大きな差が生まれます。物件価格だけでなく、通勤時間という「見えないコスト」も含めて判断することが大切です。



保育園の待機児童問題
埼玉県全体では待機児童は減少傾向にあります。県の発表では、2025年4月1日時点の待機児童数は208人で、前年の241人から33人減少しました。
ただし、この数字は県全体の合計です。待機児童ゼロの自治体がある一方で、特定の市や特定の地区に集中しているケースがあります。「埼玉県は待機児童が少ない」という総論だけで判断すると、いざ入園申込みの段になって想定が崩れかねません。
また、待機児童の定義にも注意が必要です。国の調査要領では、育児休業を延長した場合や、求職活動を休止していることが確認された場合などは、待機児童に計上されないことがあります。実際に「入りたい園に入れなかった」世帯は、公表値より多くなる可能性があります。
住まいを決める前に、候補地の自治体で希望する年齢クラスの空き状況を直接確認しておくことをおすすめします。
エリアによる利便性・資産価値の差
埼玉は面積が広く、エリアによって性格がまったく異なります。
駅から徒歩圏で複数路線が使える地域と、駅までバスや車が必要な地域とでは、生活の利便性も、将来売却するときの流動性も同じにはなりません。
「安く買えた」ことが、そのまま「得をした」ことになるとは限りません。将来の住み替えや相続まで見据えるなら、駅からの距離、周辺の再開発計画、通学区の評価といった要素を、価格と同じ重さで検討する必要があります。
埼玉の不動産相場と将来性
直近の価格動向(マンション・戸建て)
埼玉県の住宅価格も、決して安いままではありません。
不動産経済研究所によると、埼玉県の新築マンションの1戸あたり平均価格は、2025年度に6,306万円となり、前年度から7.0%上昇しました。1平方メートルあたりの単価も95.1万円と6.0%の上昇です。
背景にあるのは、建築資材や人件費の高騰です。首都圏全体で見ると平均価格は5年連続で上昇し、1平方メートルあたりの単価は14年連続の上昇となっています。都心の価格上昇に押し出されるかたちで、埼玉のような近郊エリアにも需要が波及している面があります。


人口動態から見る今後の展望
将来性を考えるうえで欠かせないのが、人口の動きです。
総務省の住民基本台帳人口移動報告によると、2025年に埼玉県は2万2,427人の転入超過となりました。これは東京都、神奈川県に次いで全国3位の規模です。転入超過となった都府県は全国で7つしかないなかで、埼玉県は依然として人を集め続けています。
一方で、注意すべき変化もあります。埼玉県によれば、県内の75歳以上人口は全国でもトップクラスのスピードで増加する見込みで、2025年の約121万人から、2050年には約146万人に達すると予測されています。
かつて若い世代が一斉に移り住んだ団地やニュータウンでは、住民の高齢化が同時に進みます。地域全体で世代交代が起きるかどうかが、そのエリアの将来を左右します。転入が続く駅近エリアと、そうでないエリアの二極化は、これから一層はっきりしていくでしょう。


まとめ:埼玉でのベッドタウン選びのポイント
埼玉県は、都心へのアクセスと住宅コストのバランスに優れたエリアです。2025年度の新築マンションの平均価格は調査対象エリアのなかで最も低く、保育の受け皿づくりも進んでいます。転入超過が続いていることは、多くの世帯が実際にこの地を選んでいる証拠でもあります。
一方で、通勤ラッシュの負担、自治体ごとに異なる保育の実情、そしてエリア間の格差という現実からは目を背けられません。
物件を選ぶときは、朝の時間帯に通勤ルートを実際に試すこと、候補地の自治体に保育の空き状況を問い合わせること、そして10年後・20年後のその街の姿を想像してみることをおすすめします。数字と、足で確かめた実感の両方が揃ってはじめて、納得のいく住まい選びができるはずです。








