億ションとは?1億円超マンションの定義と市場規模
「億ション」とは、新築分譲時の価格が1戸1億円以上のマンションを指します。かつては一部の富裕層だけが手を伸ばせる特別な存在でしたが、昨今は都市部を中心に急速に存在感を増しています。
2025年の首都圏新築マンションの平均価格は9,182万円と過去最高値を更新し、東京23区の平均は1億3,613万円に達しました。もはや23区の新築マンションは「億ションがむしろ標準」という時代に突入しつつあります。
コワニ

バブル期の1.6倍に膨らんだ新築億ション
2025年の新築億ション戸数はバブル期の1.6倍に膨れ上がりました。バブル崩壊後、長らく低迷していた高額マンション市場が、なぜここまで急拡大したのでしょうか。
戸数の伸びも顕著です。2025年に1億円以上で分譲された戸数は首都圏で5,669戸となり、前年の3,648戸から一気に55.4%増加しました。
背景には複合的な要因があります。都心周辺における地価上昇、円安による資材価格の高騰、建設業・運輸業の人件費高騰、そして2024年4月以降の省エネ基準適合義務化によるコスト増が重なっています。加えて、都心周辺で発生しているマンションの“買い進み”が価格高騰に拍車をかける最大の要因とも指摘されています。供給側・需要側の両面から価格が押し上げられている構図です。
新築・中古それぞれの23区集中率
特筆すべきは、その供給が特定地域に極端に偏っている点です。新築億ションは供給の約7割を東京都23区が占め、全国的に供給が増えたバブル期とは対照的な状況となっています。中古に至っては約9割が23区に集中しており、資産性は地域によって大きな差が生じています。
この「中古の集中」を裏づけるデータがあります。2025年(1〜6月)の東京都の中古億ションのうち、99.1%が東京23区で、東京都下は0.9%にとどまっています。中古の高額物件は、もはや都心のごく一部に偏在しているのが実態です。
なお、ここで注意したいのが「23区の中古マンションのうち、どれくらいが億ションか」という別の指標です。LIFULLの調査によれば、東京23区内の中古マンションのうち1億円を超える「中古億ション」の割合は2025年に18.8%となり、2020年の3.4%から大幅に増加しました。つまり、23区の中古マンションの約5戸に1戸が億ションという、都心特有の「局地バブル」が進行しているのです。


なぜ23区に供給が集中するのか
バブル期との決定的な違い
バブル期(1988〜1992年)の億ションブームは、現在とは性質が異なりました。当時は全国的に地価が上昇し、億ションの供給も各地に広がっていました。ところが現在は、23区という限られたエリアへの一極集中が際立っています。
東京都に限ってみても、近年の伸びは突出しています。東京都の新築億ション供給戸数は2023年に4,039戸と一気に4千戸の大台まで急増し、平均価格は20,436万円、坪単価は816.5万円とともにバブル期以来の高水準を示しました。
バブル期は「土地神話」が全国に波及した需要主導の上昇でしたが、現在は建設コストと都心立地への需要集中が組み合わさった、構造的に異なる価格上昇といえます。
地価・建築費高騰が生む「23区偏重」構造
なぜ億ションは23区に集まるのか。その理由は、採算構造にあります。用地費・建築費・人件費が高騰した現在、デベロッパーが事業として成立させるには、高額で売れる立地、すなわち23区内でなければ採算が取りにくくなっています。
23区外の周辺エリアでも用地取得競争が一層激化し、駅近物件の希少性が高まっています。つまり、デベロッパーが用地を取得できる場所に億ションが生まれ、その場所がほぼ23区内に限定されるという構図が固定化しつつあります。



23区外の億ションが抱える資産価値リスク
新築時に1億円超でも維持できない現実
億ションを購入する際、多くの人が「高額だから資産価値も高いはず」と考えがちです。しかし、これは立地によって大きく異なります。
重要なのは「リセールバリュー(価格維持率)」という指標です。東京カンテイの「2024年 中古マンションのリセールバリュー(首都圏)」によると、リセールバリューが算出可能だった372駅の平均値は147.8%で、対象駅の大半が新築分譲時を上回っていました。資産価値が新築分譲時を下回った駅は、わずか9駅(計2.5%)にとどまっています。
ただし、この「おおむね値上がりしている」という状況は、過去10年(2014年前後の分譲物件)を振り返った結果であり、永続を保証するものではありません。そして重要な点は、新築分譲時よりも資産価値が目減りしている駅は、東京都下や周辺3県の遠隔地に散見されるという事実です。現時点で辛うじて値を保っていても、郊外・地方の億ションは長期的に維持できない可能性があります。


地方・郊外億ションの値下がり事例
なぜ地方・郊外では資産価値の維持が難しいのか。その本質は「需要の薄さ」にあります。国土交通省の地価調査でも、地方の一部エリアでは前年比マイナスとなっており、立地によって資産価値の維持に大きな差が出ています。エリアや物件の特性によって価値の差が広がる「選別の時代」に突入していると言えるでしょう。
億ションという高額物件は、売却する際に買い手が限られます。1億円を出せる購買層が薄い地域では、いざ売ろうとしたときに買い手が見つからず、値下がりを受け入れざるを得ないケースが出やすくなります。新築時に1億円だったとしても、中古市場でその価格を維持できる保証はどこにもないのです。
さらに人口動態も見逃せません。厚生労働省の将来推計人口によれば、日本の人口は2020年の1億2,615万人から2070年には8,700万人に減少すると予想されており、その影響は特に住宅購入の主力である若年層で大きいとされています。需要の担い手が減少するエリアでは、不動産価値の長期的な下押し圧力が続きます。



23区内の億ションにも「息切れ」の兆候
高額取引に指摘される失速サイン
23区の億ション市場は、一見すると依然として活況です。しかし、価格高騰の裏側には、市場の疲弊を示すデータが現れ始めています。2024年の初月契約率は66.9%と、前年(70.3%)比3.4ポイントダウンし、2020年以来の60%台に下落しました。初月契約率とは、発売した月のうちに売れた割合を示す指標で、一般に70%超が「好調」の目安とされます。それが60%台に落ちたということは、高額物件に対して買い手が慎重になり始めていることを意味します。
価格にも頭打ちの兆しがあります。首都圏平均価格の推移をみると、2025年8月の1億325万円でピークを迎えた後、9月9,956万円、10月9,895万円、11月9,181万円、12月8,469万円と4ヶ月連続で下落しました。月次の価格がピークから下落傾向に転じているのは、需要側に限界が生じつつあることを示唆しています。
購入者・自治体への長期的影響
億ションの急増は、購入者個人だけでなく、物件が立地する自治体にも影響を与えます。高額物件の住民が集まれば、固定資産税収入は増加します。しかし、市場が軟化して物件価格が下落すれば、将来的に評価額の見直しを通じて税収が変動するリスクもあります。また、タワー型の大規模物件では、住民の高齢化に伴う修繕積立金不足や管理組合の機能低下といった問題も、長期的な課題として指摘されています。
購入者個人にとっても、想定外の価格下落は資産計画全体を狂わせかねません。実際、価格の高騰からマンション購入を諦め、戸建てにシフトする動きが首都圏の現役世代に広がっています。これは需要層の変化を示しており、億ション購入者が将来売却する際の買い手プールが細る可能性も否定できません。
億ションを慎重に選ぶための3つのチェックポイント
立地・路線価・将来人口を確認する
①路線価・地価の動向
国税庁が毎年公表する路線価や、国土交通省の公示地価を確認しましょう。直近5〜10年で上昇傾向にあるエリアは、需要の裏付けがあります。
②将来人口推計
国立社会保障・人口問題研究所が市区町村別の将来人口推計を公表しています。推計では、港区・中央区・千代田区などで人口増が見込まれる一方、練馬区などでは減少が予測され、23区内でも格差が生まれています。23区外では減少幅がさらに大きくなる傾向にあり、需要の先細りリスクが高まります。
③リセールバリューの実績
東京カンテイなどが公表するリセールバリューのデータで、対象エリアの価格維持率の実績を確認しましょう。2024年のリセールバリューランキングの上位駅は、いずれも東京23区内の駅で占められており、23区集中は新築だけでなく中古市場の流動性にも表れています。
新築と中古、どちらがリスクを抑えられるか
新築は価格が高い分、購入直後から「中古になった時点での値下がり」を受け入れる必要があります。一方、LIFULLの調査では、2025年に23区の中古マンションを70㎡換算で見ると、築25年未満までが平均で「億超え」となっており、23区の好立地であれば築年数が進んでも億ションとして流通する実態があります。
つまり、23区内の好立地物件であれば、中古で購入し長期保有するほうが、新築プレミアムの値下がりリスクを回避できるという考え方も成り立ちます。いずれにせよ、立地の精査なしに「億ションだから安心」という発想は危険です。


まとめ|億ション購入は「立地の精査」が最大の防衛策
億ションの供給はバブル期を大きく超える水準に達していますが、その実態は東京23区への極端な一極集中です。新築で約7割、中古では約9割が23区に集中しており、資産性の維持という観点からは「23区か否か」が決定的な分岐点となっています。
23区外の億ションは、新築時点では確かに1億円の価値があっても、中古市場での需要が薄く、将来的に価格を維持しにくいケースが多くなっています。人口減少が進む地域では、その傾向はさらに強まります。
一方、23区内の市場にも息切れの兆候があり、価格のピークアウトや契約率の低下が見られます。「23区なら必ず値上がりする」という過信も禁物です。
不動産市場は今、エリアや物件の特性によって価値の差が広がる「選別の時代」に入っています。億ションという高額の買い物だからこそ、路線価・将来人口・リセールバリューの3点を軸に、冷静に物件を比較・精査することが、後悔しない購入の第一歩となります。
【参考データ出典】
不動産経済研究所「首都圏新築分譲マンション市場動向2025年」/東京カンテイ「2024年 中古マンションのリセールバリュー(首都圏)」/LIFULL HOME’S「東京23区の中古億ション調査」「築年数別 中古マンション価格調査」/日本経済新聞・産経新聞 各報道








