渋谷の家賃相場は本当に高いのか?
「渋谷に住めたら便利なのに」と思いながら、家賃を調べて手が止まった経験はありませんか。
コワニ不動産・住宅情報サービスのLIFULL HOME’Sが2026年7月13日に公表した分析によると、渋谷駅で問い合わせがあった単身向け物件の中央値は、家賃11.1万円、専有面積23平米、築19年でした。ワンルームや1Kといった間取りで、この水準です。
同社のLIFULL HOME’S総研は、渋谷駅周辺の新築マンション価格が60平米超で概ね2.5億円、新南口改札から徒歩4分の物件では約25平米のワンルームが月額16万円超という事例もあると指摘しています。買うのも借りるのも、かなりハイレベルな街だということです。
同じ予算をもう少し広い部屋に使いたい、あるいは家賃そのものを下げたい。そう考えるのは自然なことです。では、渋谷に住みたいと考えた人たちは、実際にどうしたのでしょうか。


渋谷を指定した人の8割が「隣の駅」を選んでいる
先ほどの調査は、「渋谷駅だけを指定して物件を探し始めた人が、最終的にどの駅の物件へ問い合わせたか」を追跡したものです。対象となったのは、2025年1月から12月までの間に、渋谷駅のみを指定して探し始めてから7日以内に問い合わせをした単身向け間取り(ワンルーム、1K、1DK、1LDK)の利用者です。
結果は明快でした。問い合わせ先は200を超える駅に分散し、約8割が渋谷以外の駅を選んでいたのです。
ここで重要なのは、その行き先が郊外や遠方ではなかったという点です。上位に並んだのは、恵比寿、神泉、池尻大橋、中目黒といった、渋谷から数分の駅ばかりでした。渋谷を諦めて遠くへ移ったのではなく、渋谷の便利さが届く範囲の中で、条件のよい場所を探し直したという構図です。
ちなみに、移動先のすべてが「安い駅」だったわけではありません。2位の恵比寿は家賃17.8万円ながら専有面積は40平米と渋谷の1.7倍以上、6位の中目黒も15.0万円で34平米でした。目黒(12.2万円・29平米)や不動前(12.3万円・27平米)も同様です。家賃を上げてでも居住空間のゆとりを優先した層が、一定数いたということです。
つまり「渋谷は高いから安い駅へ逃げる」という単純な話ではなく、近さを保ったまま何を取って何を譲るかで着地点が分かれています。この記事では、そのうち家賃を抑える方向の選択肢を中心に見ていきます。
こうした探し方を、LIFULL HOME’Sは「ずらし駅」と呼んでいます。同社が2025年のトレンドワードとして公表した言葉で、賃料が高騰するなか、ターミナル駅や人気エリアから数駅離れたり別路線の駅を選んだりすることで、利便性を大きく損なわずに家賃を抑える動きを指します。これが節約の第一歩になります。
電車で数分。家賃を抑えられる「ずらし駅」3選
まずは、渋谷から数分という近さを保ちながら、家賃を抑えられる駅を見ていきましょう。以下はいずれも、調査で実際に問い合わせがあった物件の中央値です。
神泉(渋谷から1分)
家賃10.4万円、22平米、築14年。渋谷の隣、京王井の頭線の駅です。渋谷とほぼ同じ広さを保ちながら、家賃は0.7万円ほど下がり、築年数は5年新しくなります。渋谷駅から道玄坂を上って徒歩10分ほどの距離にあり、「渋谷生活圏」そのものと言ってよい立地です。
池尻大橋(渋谷から2分)
家賃8.6万円、21平米、築24年。渋谷との差は2.5万円で、年間にすると30万円の差になります。築年数は少し経ちますが、広さはほぼ変わりません。東急田園都市線の駅で、急行は停まりませんが、準急と各駅停車が利用できます。
三軒茶屋(渋谷から3〜4分)
家賃8.9万円、21平米、築16年。築年数は渋谷より新しく、家賃は2.2万円安いという組み合わせです。田園都市線の急行停車駅で、飲食店や商店街が充実しており、渋谷に出なくても生活が完結しやすいエリアでもあります。
この3駅に共通するのは、広さをほとんど犠牲にせずに家賃だけを下げられるという点です。渋谷にこだわりすぎて予算が合わない場合、まず検討したい選択肢と言えます。


もう少し足を延ばせば、さらに本格的に節約できる
家賃をもう一段下げたい場合は、築年数や面積を少しだけ調整する方法があります。
- 駒場東大前(渋谷から3分) … 家賃7.5万円、20平米、築33年
- 明大前(渋谷から6分) … 家賃7.7万円、20平米、築18年
- 祐天寺(渋谷から6分) … 家賃6.8万円、18平米、築36年
- 下北沢(渋谷から4分) … 家賃9.3万円、22平米、築21年
祐天寺の6.8万円は、渋谷の11.1万円と比べて4.3万円の差です。年間では約52万円になります。もちろん築36年・18平米という条件を受け入れた結果ではありますが、「住む場所」より「使えるお金」を優先したい方には現実的な選択でしょう。



実際、同調査では家賃8万円台までの帯で問い合わせ物件の築年数中央値が約26年だったのに対し、家賃の高い帯では約10年でした。家賃を抑える代わりに新しさを譲る、という傾向がはっきり表れています。
一方、明大前は築18年で7.7万円と、築年数と家賃のバランスが取れています。下北沢は9.3万円とやや高めですが、街の個性を重視する方には十分に検討する価値があります。
乗り換えがあっても検討したい、築浅でお得な駅
「乗り換えがある駅は面倒だから」と最初から候補から外していませんか。実は、乗り換えを伴う駅にこそ、条件のよい物件が残っていることがあります。
- 笹塚(渋谷から14分・乗り換えあり) … 家賃9.5万円、25平米、築7年
- 代々木上原(渋谷から14分・乗り換えあり) … 家賃9.7万円、23平米、築16年
笹塚の築7年という数字に注目してください。渋谷の築19年と比べて12年も新しく、面積は25平米と2平米広く、それでいて家賃は1.6万円安いという条件です。設備の新しさを重視する方にとっては、かなり有利な組み合わせと言えます。
代々木上原も、渋谷とほぼ同じ広さで家賃が1.4万円下がります。小田急線と東京メトロ千代田線が乗り入れており、都心方面へのアクセスも良好です。
乗り換え1回という手間を許容できるかどうかで、選べる物件の質が変わってくるということです。
なぜ数駅ずらしても渋谷の便利さを失わずに済むのか
ここまで見てきた駅は、いずれも渋谷から十数分以内です。なぜこれほど近い距離で、これだけの家賃差が生まれるのでしょうか。
理由のひとつは、家賃は駅単位で決まるのに対し、生活の行動範囲は路線単位で広がっているという構造にあります。
渋谷駅にはJR各線、京王井の頭線、東急線、東京メトロなど複数の路線が乗り入れ、1日の乗降客数は約289万人。新宿の約305万人に次ぐ全国2位のターミナルです。運行本数が多く、時刻表を気にせず移動できる環境が整っているため、数駅離れていても渋谷の商業施設や職場に不便を感じにくいのです。
同調査でも、広さを取る人も家賃を抑える人も、共通して「渋谷からの近さ」を重視していたことが確認されています。渋谷からの所要時間が長くなるほど、問い合わせは減っていました。近さだけは、多くの人にとって譲れないものさしだったということです。
つまり、渋谷の利便性は駅前だけに閉じているわけではありません。周辺の駅も含めた広い範囲が、実質的に「渋谷生活圏」として機能しています。家賃だけが駅ごとに区切られているため、そこに差額というチャンスが生まれます。


「ずらし駅」を選ぶときに確認したいポイント
ただし、数字上の所要時間だけで判断すると、後悔することもあります。内見の前に、次の点を確認しておくことをおすすめします。



1. 表示された所要時間の中身を確かめる
「渋谷から2分」といった数字に、乗り換えや待ち時間がどこまで含まれるかは公表されていません。各駅停車しか停まらない駅では、体感の所要時間が変わることもあります。
2. 運行本数と終電時刻を調べておく
深夜まで出かける機会が多い方は、終電の時刻と本数が生活の質を左右します。乗り換えを伴う笹塚や代々木上原のような駅では、乗り継ぎ側の終電にも注意が必要です。帰りが遅い日にタクシーを使うことが増えれば、せっかくの家賃差が相殺されてしまいます。
3. 駅から物件までの実際の移動手段
徒歩何分という表示だけでなく、坂道の有無や夜道の明るさを確認しておくと安心です。渋谷周辺は坂の多い地形なので、地図上の距離と体感が食い違いやすい点にも注意してください。近年はシェアサイクルのポートが使えるエリアも増えているので、あわせて調べておくとよいでしょう。
4. 駅周辺で生活が完結するか
スーパー、コンビニ、ドラッグストアの有無は、家賃差以上に日々の負担を左右します。三軒茶屋や下北沢のように商業機能が充実した駅は、この点で有利です。
5. 築年数と設備のバランス
築年数が古くてもリノベーション済みの物件はあります。逆に築浅でも設備が最低限の場合もあるため、数字だけで判断しないことが大切です。


まとめ:家賃を抑えながら渋谷の利便性を手放さない選択を
渋谷駅を指定して部屋探しを始めた人の約8割が、最終的に別の駅を選んでいました。これは渋谷を諦めた結果ではなく、渋谷の便利さを保ったまま条件を最適化した結果です。
広さを変えずに家賃を抑えるなら神泉、池尻大橋、三軒茶屋。さらに節約するなら駒場東大前、明大前、祐天寺。築浅を狙うなら笹塚や代々木上原。1駅から数駅ずらすだけで、月0.7万円から4.3万円の差が生まれます。年間にすれば、最大で50万円を超える計算です。
大切なのは、自分が何を優先するのかを先に決めておくことです。広さなのか、築年数なのか、家賃なのか。優先順位がはっきりするほど、候補の駅は自然に絞られていきます。逆に「渋谷駅」という条件だけを握りしめていると、予算に合う物件が見つからないまま時間だけが過ぎてしまいます。
住まいの価値は、どの駅に住んでいるかという固定的な条件だけでは測れなくなってきています。これからの部屋探しでは、「渋谷駅の物件かどうか」ではなく「渋谷までどれだけ短時間で行けるか」という視点を持つことが、賢い節約につながるはずです。
まずは渋谷の隣駅から、検索範囲を少しだけ広げてみてはいかがでしょうか。








