金利が上がれば不動産価格は下がる。教科書的にはそう説明されます。ところが2026年6月に日銀が政策金利を1%程度へ引き上げたあとも、マンション価格の上昇は止まっていません。首都圏の新築マンションは、2026年上半期の平均価格が初めて1億円を超えました。
なぜ利上げをしても下がらないのでしょうか。そして、これから購入を考える人は何に備えればよいのでしょうか。最新のデータをもとに整理します。

日銀の利上げでマンション市場は何が変わったのか
政策金利は31年ぶりの水準へ
日銀は2026年6月15日・16日の金融政策決定会合で、政策金利を0.75%程度から1.0%程度へ引き上げることを決めました。1%という水準は1995年以来、およそ31年ぶりの高さです。利上げは2025年12月以来となります。
長らく「金利のない世界」に慣れてきた日本にとって、これは大きな転換点です。住宅ローンの変動金利はネット銀行の最優遇でも0.8%台が中心となり、全期間固定のフラット35は2026年7月時点で3.14%(融資率9割以下)と、かつての1%台とはまるで違う景色になっています。
それでも価格は下がっていない
一方の価格はどうでしょうか。不動産経済研究所が2026年7月に発表した調査によると、2026年上半期(1〜6月)の首都圏新築マンションの平均価格は1億135万円で、前年同期比13.1%の上昇でした。上半期として1億円を超えたのは初めてのことです。
エリア別では、東京23区が1億4249万円、神奈川県が8346万円、千葉県は船橋などでの超高層物件の供給が効いて56.8%上昇の8997万円となりました。前年を下回ったのは埼玉県だけです。利上げの効果は、少なくとも価格の面ではまだ表れていないのが実情です。
コワニ「利上げ=住宅価格の下落」とは限らない3つの理由
理由1:海外でも利上げ後に価格が上がった例がある
参考になるのがアメリカです。FRBが2022年に急速な利上げへ転じた際、住宅価格は一時的に下落したものの、2023年春には再び上昇に転じました。低金利で借りていた既存の住宅所有者が売却や借り換えをためらい、市場に出る物件そのものが減ったためです。いわゆる「ロックイン効果」と呼ばれる現象です。
金利が上がっても、売り物が減れば価格は下がりにくい。この構図は日本でも起こりえます。
ただし、楽観だけはできません。家賃が動きにくい国ほど利上げ後の住宅価格が下がりやすいという分析もあり、日本はまさに家賃が硬直的な国です。海外の平均像として、1%の利上げが名目の住宅価格を0.5%程度押し下げるという試算も示されています。あくまで「下がるとは限らない」であって、「絶対に下がらない」ではない点は押さえておきたいところです。


理由2:株高で不動産に資金が流れ込んでいる
2026年6月、日経平均株価は7万円台に乗せて史上最高値を更新しました。7月に入ってからは値動きが荒くなっていますが、水準としては依然として高い位置にあります。
株式で資産を増やした層が、その一部を都心のマンションへ振り向ける動きが続いています。頭金を厚く用意できる購入者にとって、住宅ローン金利の0.25%は決定的な障害になりません。金利上昇が効きにくい買い手が価格帯の上位を占めていることが、相場の下支えになっています。
加えて、為替の影響も無視できません。日銀が1%まで利上げをしてもなお、欧米との金利差は大きく開いたままで、1ドル160円台の円安基調が続いています。海外の投資家から見れば、東京の不動産は主要都市のなかで依然として割安に映ります。国内の金融政策だけでは、価格を押し下げきれない事情がここにもあります。
理由3:新築の供給が細り、建築コストが下がらない
2026年上半期の首都圏の新築マンション発売戸数は7989戸で、前年同期比0.8%減でした。上半期としては5年連続の減少で、1万戸割れは3年連続です。
背景にあるのが建設費です。資材価格の上昇と職人不足による人件費の高騰が続き、デベロッパーは採算の合う高価格帯のエリアへ供給を絞っています。つまり「高くても売れる場所にしか建てない」という選別が進み、それが平均価格をさらに押し上げているわけです。



エリアによって分かれ始めた「天井感」
都心の一部では頭打ちの兆しも
もっとも、すべてが上がり続けているわけではありません。東京カンテイの調査では、2026年6月の東京23区の中古マンション平均価格(70平方メートル換算)は1億2741万円と前月比0.8%下落し、26カ月ぶりの反落となりました。港区などの都心部は1億8512万円で、2カ月連続の下落です。
理由は明快で、実需層の手が届かない価格帯まで上がりすぎたためです。売れ残る物件が増え、売り主が価格を見直す動きが出ています。新築の初月契約率も64.8%と、好調の目安とされる70%を2年以上下回ったままです。
首都圏全体や郊外はなお上昇
一方、首都圏全体の中古マンション平均価格は7454万円で、前年同月比27.4%の上昇と過去最高を更新しました。都心の高値に手が届かない層が周辺エリアへ流れ、神奈川・埼玉・千葉の相場を押し上げる構図です。
「都心の一部は頭打ち、周辺はなお上昇」という二極化が、いまの市場を読み解くうえでの鍵になります。「マンション価格」とひとくくりにせず、検討しているエリアの数字を個別に見る姿勢が欠かせません。


購入検討者が備えるべき2つのリスク
リスク1:高値づかみになる可能性
価格が最高値圏にあるということは、裏を返せば買値がピークになるリスクも高いということです。とりわけ、投資マネーの流入で急騰したエリアや、実需層の年収水準から大きく離れた価格帯の物件は、調整局面での下落幅も大きくなりがちです。
将来の売却や住み替えを視野に入れるなら、駅からの距離、周辺の再開発計画、管理体制、修繕積立金の積み立て状況など、価格以外の要素で選ぶ視点が重要になります。
新築にこだわらないのであれば、中古も含めて検討する価値は十分にあります。都心の高額帯では価格を見直す物件が出始めており、売り出しから時間が経った物件では交渉の余地が生まれやすくなっているためです。新築と中古の価格差が縮んでいるエリアでは、同じ予算でより広い住戸を選べる場合もあります。
リスク2:返済額が数年後に増える
変動金利を選ぶ人は、返済額が増えるタイミングを正しく理解しておく必要があります。今回の利上げを受け、多くの銀行が2026年10月ごろに変動金利の基準金利を0.25%程度引き上げるとの見方が有力です。三菱UFJ銀行とみずほ銀行は、8月から短期プライムレートの引き上げを予定しています。
ただし、すでに借りている人の返済額に反映されるのは2027年1月以降が一般的です。多くの銀行には返済額を5年間据え置く「5年ルール」、見直し時も従来の1.25倍までとする「125%ルール」があります。気をつけたいのは、これらのルールは返済額を一時的に抑えるだけで、利息そのものを免除する仕組みではないという点です。据え置かれた分は、元金の減りが遅くなる形で後に残ります。



利上げ時代の資金計画、3つのポイント
ポイント1:「金利+1%」でシミュレーションする
いま0.9%で借りられるとしても、35年の返済期間中ずっと同じ金利が続くとは考えにくい状況です。金利が1%から2%上がった場合の返済額を試算し、それでも家計が回るかどうかを確認してください。
たとえば5000万円を35年・元利均等で借りた場合、金利0.9%なら月々およそ13万9000円ですが、1.9%になると約16万3000円と、月2万4000円ほど増えます。年間にすればおよそ29万円の差です。この負担増を許容できるかどうかが、購入判断の分かれ目になります。
ポイント2:変動か固定か、判断の分かれ目
2026年7月時点で、変動金利と全期間固定金利の差はおよそ2%あります。単純に考えれば、変動金利が2%以上上昇し、その水準が長く続く場合に固定が有利になる計算です。
もっとも、当初の負担差は小さくありません。先ほどの5000万円・35年の例でいえば、変動0.9%なら月々約13万9000円、フラット35の3.14%なら約19万6000円と、月5万7000円ほどの開きがあります。固定は「保険料を先払いして返済額を確定させる選択」と考えると分かりやすいでしょう。
家計に余裕があり、金利上昇時に繰り上げ返済で対応できる人は変動、返済比率が高く、教育費のピークとローン返済期間が重なる人は固定寄りに。これが基本的な考え方になります。迷う場合は、借入額の一部を固定にする組み合わせも選択肢です。
ポイント3:借入可能額ではなく返済可能額で考える
銀行が貸してくれる額と、無理なく返せる額は別物です。年間返済額は、手取り年収の20%から25%以内が一つの目安とされます。
さらにマンションは、管理費・修繕積立金・固定資産税が毎月数万円単位でかかります。修繕積立金は築年数の経過とともに上がるのが通常で、購入時の金額がずっと続くわけではありません。ローン返済額だけで判断すると、10年後、15年後に家計が苦しくなります。


まとめ:今買うべきか、待つべきか
利上げ後も価格が下がらない理由は、供給の細りと建築費の高止まり、そして株高マネーの流入にありました。一方で都心の一部には天井感も出始めており、市場は決して一枚岩ではありません。
大切なのは、相場を当てにいくことではなく、価格が高止まりしても、金利がもう一段上がっても耐えられる資金計画を立てることです。その条件さえ満たせるなら、購入のタイミングに過度に悩む必要はありません。
なお、日銀が年内にもう一段の利上げに踏み切るとの見方も一部にあります。金利が上がる前に借りたいという焦りは自然な感情ですが、その焦りが予算を押し上げてしまっては本末転倒です。金利が0.25%上がることよりも、無理な借入額で35年間を過ごすことのほうが、家計へのダメージははるかに大きくなります。
まずは「金利+1%」での返済シミュレーションから始めてみてください。数字にしてみると、自分にとっての適正価格が驚くほどはっきり見えてきます。そのうえで気に入った物件に出会えたなら、それがあなたにとっての買い時です。
※本記事の価格・金利データは2026年7月時点の公表値に基づきます。最新の情報は各機関の発表をご確認ください。








