東京23区の中古マンション価格が、2年2カ月ぶりに下落しました。不動産調査会社の東京カンテイが2026年7月23日に発表した6月時点の調査で明らかになったものです。「上がり続けるもの」と思われてきた都心の相場に、いま何が起きているのでしょうか。公表データをもとに、下落の実像と背景、そして今後の見通しを整理します。

東京23区の中古マンション、2年2カ月ぶりに下落
平均価格は70㎡換算で1億2741万円
東京カンテイの調査によると、2026年6月時点における東京23区の中古マンションの平均希望売り出し価格は、70平方メートル換算で1億2741万円でした。前月比で0.8%の下落です。23区の平均価格が前月を下回るのは26カ月ぶり、およそ2年2カ月ぶりの出来事となります。
裏を返せば、2026年5月までは25カ月連続で最高値を更新し続けていたということです。2年以上にわたって一度も前月を割り込まなかった相場が、ついに足踏みを始めたことになります。
ここで押さえておきたいのは、この数字が「売り出し価格」だという点です。実際に成約した価格ではなく、売り主が市場に提示している希望価格の平均値を指します。つまり売り手側の強気度合いを映す指標であり、市場の空気の変化がいち早く表れやすいという特徴があります。
また「70平方メートル換算」という点にも注意が必要です。東京カンテイは実際の売り出し事例から坪単価を算出し、それをファミリー向けの標準的な広さである70平方メートルに換算して比較しています。物件ごとの広さの違いをならすことで、エリア間や時期による比較を可能にする手法です。裏返せば、実際に1億2741万円で売られている物件がそのまま数多く存在する、という意味ではありません。
前年同月比では依然23.3%の上昇
一方で、前年同月と比べると23.3%の上昇です。単月では下落したものの、1年前と比べればまだ2割以上高い水準にあります。
首都圏1都3県で見ても前年同月比27.4%上昇の7454万円となっており、エリア全体としての上昇基調そのものが崩れたわけではありません。今回の下落は、急上昇のあとに訪れた最初の変調と捉えるのが妥当でしょう。
この「前月比では下落、前年比では大幅上昇」という二面性こそが、現在の市場を理解するうえでの出発点になります。数字の切り取り方によって、まったく違う印象を与えかねないからです。
コワニ下落を牽引したのは「都心6区」
都心6区は2カ月連続のマイナス
23区全体の下落を招いた主因は、都心部の失速です。千代田区・中央区・港区・新宿区・文京区・渋谷区からなる都心6区の平均価格は1億8512万円で、前月比1.3%の下落でした。都心6区は2カ月連続のマイナスで、しかも下落幅は前月から0.9ポイント拡大しています。
下げ幅が広がっている点が重要です。一時的なブレであれば下落率は小さくとどまりますが、月を追うごとに下落が深まっているとなれば、方向性そのものが変わりつつある可能性を示唆します。
城南・城西、城北・城東は上昇を継続
対照的に、都心以外のエリアは堅調です。品川区や杉並区などを含む城南・城西6区は1億794万円で前月比1.1%の上昇。板橋区や江東区などの城北・城東11区は8338万円で0.5%の上昇でした。
つまり23区全体が一律に下がったのではなく、価格が突出して高い都心部だけが調整に入っているという構図です。神奈川・埼玉・千葉といった周辺3県も上昇傾向を維持しており、市場は明確に二極化しています。
この差は、エリアごとの買い手の顔ぶれの違いを反映していると考えられます。都心6区は投資目的での購入比率が高いのに対し、城南・城西や城北・城東は実際に住む人が中心です。買い手の目的が違えば、価格が動く理由も、動くタイミングも変わってきます。


半数超が値下げ「価格改定シェア50.9%」の重み
リーマン・ショック期以来の高水準
今回の発表で最も象徴的な数字が、価格改定シェアです。これは売り出したあとに値下げした物件の割合を示す指標で、6月時点で50.9%に達しました。販売中の物件の半分以上が、当初の売り出し価格から値下げに踏み切っている計算になります。
これは2008年以来の水準にあたります。売り主がまず強気の価格、いわば「挑戦価格」で市場に出したものの買い手がつかず、やむなく引き下げているケースが急増していることを意味します。
この指標は、直近3カ月間に一度でも値下げを行った住戸の割合として算出されます。したがって一時的で小幅な調整も含まれますが、それでも半数を超えたという事実は重い意味を持ちます。売り出し価格と、買い手が実際に納得できる価格との間に、それだけ大きな隔たりが生じていたということだからです。
流通戸数の増加も裏付けに
あわせて、市場の在庫を示す流通戸数も増加し、値下げの幅そのものも拡大しています。売り物件が積み上がり、値下げする物件が増え、値下げ幅も広がる。この3つが同時に起きている状況は、需給バランスが売り手優位から買い手優位へ傾きつつあることを物語ります。
価格改定シェアや流通戸数は、平均価格そのものよりも先に動く「先行指標」と位置づけられます。平均価格の下落は、水面下ですでに進んでいた変化がようやく数字として表面化したものと見ることができます。



なぜ都心マンションは「頭打ち」になったのか
投資マネーの流入と、その反動
東京23区の中古マンション価格は、売却益を狙う国内外の投資家に牽引される形で、バブル期を超える水準まで上昇してきました。円安を背景とした海外マネーの流入も、この動きを後押ししてきたと指摘されています。
東京カンテイの分析でも、投資マネーの流入によって価格が高騰してきた反動から、都心6区の市場は弱含みの方向に向かいつつあるとの見方が示されています。上昇を支えていた要因そのものが、今度は下落圧力へと転じつつある局面といえます。


実需層の手が届かない価格帯へ
もうひとつの要因が、実際に住むために購入する実需層の離脱です。都心6区の平均が1億8512万円という水準では、共働き世帯がペアローンを組んだとしても購入は容易ではありません。
実需層が手を出せず、投資家にとっても値上がり益を見込みにくい。結果として、高額物件から買い手が消えていく状態が生まれています。値段が高すぎて買える人がいない、というきわめてシンプルな構図です。
仮に1億8000万円の物件を購入する場合、頭金を差し引いてもなお1億円を大きく超える借入が必要になるケースは珍しくありません。世帯年収が高くても、返済負担率や金融機関の審査基準を考えれば、現実的な選択肢として検討できる世帯は限られます。価格の上昇スピードが、給与の伸びを大きく上回ってしまったことが根本にあるといえるでしょう。
投資家にとっての妙味の低下
投資家が物件を買う最大の動機は、将来より高く売れるという期待です。しかし価格がすでに歴史的な高値にあり、上値余地が乏しいと判断されれば、その動機は薄れます。
さらに、金利環境の変化も無視できません。金利が上昇する局面では借入コストが増え、不動産投資の利回り妙味は相対的に低下します。売却益への期待と保有コストの両面から、投資マネーが慎重になりやすい環境が整いつつあるのです。
加えて、円安を追い風にしてきた海外投資家にとっては、為替の動き次第で日本の不動産の割安感が薄れる可能性もあります。購入時に有利だった為替条件が変われば、投資判断も当然変わります。都心のマンション市場が、国内の需給だけでは説明しきれない要素を抱えていることの表れといえるでしょう。
今後、周辺エリアへの波及はあるのか
隣接エリアへの影響
市場関係者の間では、都心6区で起きている調整が隣接する地域へ波及する可能性が指摘されています。都心の価格が下がれば割安感から需要が都心へ戻り、その分だけ周辺エリアの需要が薄まるという流れが起こりうるためです。
一方で、実需が中心のエリアについては比較的底堅く推移するとの見方もあります。投資マネーの比率が低いエリアほど、投機的な値動きの影響を受けにくいからです。
売り手・買い手それぞれの視点
売却を考えている方にとっては、強気の価格設定が通用しにくくなっている点に注意が必要です。「まず高く出して、売れなければ下げる」という戦略は、在庫が積み上がる局面では機能しにくくなります。相場に沿った価格設定と、早めの意思決定がこれまで以上に重要になります。
購入を検討している方にとっては、選択肢が増える局面ともいえます。ただし下落はまだ都心の一部で始まったばかりであり、23区全体が下がるかどうかを現時点で断定することはできません。単月のデータだけで判断せず、数カ月の推移を見極める姿勢が求められます。
また、購入を検討するのであれば、同じ23区内でもエリアによって市場の温度差が大きい点を意識したいところです。都心6区で起きていることが、そのまま城北・城東エリアに当てはまるわけではありません。エリア単位、さらにいえば駅単位で在庫の状況や値下げの動きを確認することが、これまで以上に有効になります。





まとめ|転換点を迎えた東京の中古マンション市場
今回の調査結果を、あらためて整理します。
- 東京23区の平均希望売り出し価格は6月時点で1億2741万円、前月比0.8%減と26カ月ぶりに下落
- 下落を牽引したのは都心6区で、2カ月連続のマイナス。下落幅も拡大している
- 城南・城西、城北・城東エリアは上昇を維持しており、市場は二極化している
- 価格改定シェアは50.9%と2008年以来の水準に達した
- 背景には投資マネー流入の反動と、実需層が手を出せない価格帯への到達がある
今回の数字は、東京の不動産市場が上昇一辺倒の局面から、物件が選別される局面へ移行しつつあることを示すサインかもしれません。ただし、1カ月のデータだけで大きな流れが決まるわけではありません。価格改定シェアや流通戸数といった先行指標を継続的に確認しながら、冷静に市場と向き合っていきましょう。
※本記事は2026年7月23日に公表されたデータおよび報道内容にもとづく情報提供を目的としたものであり、特定の不動産取引を推奨するものではありません。最終的なご判断は、最新の情報と専門家への相談を踏まえて行ってください。








