2026年7月、法務省が「所有者不明建物」への対策に本格的に乗り出すと報じられました。背景にあるのは、登記されていない建物が全国で1000万棟を超えるという推計です。
「自分の家には関係ない話だ」と思われるかもしれません。しかし、実家や相続した空き家が未登記のまま何十年も放置されているケースは、決して珍しくないのです。
この記事では、そもそも不動産登記とは何なのか、登記をしないと具体的にどんな不利益が生じるのか、そして自分の家が未登記かどうかを確かめる方法まで、専門用語をかみ砕いて解説します。

そもそも「不動産登記」とは?初心者向けに一言で説明
登記=国が管理する「不動産の戸籍」
不動産登記とは、土地や建物について「どこに、どんな大きさの、誰のものである不動産が存在するのか」を国(法務局)が記録し、誰でも確認できる状態にしておく制度です。
人に戸籍があるように、不動産にも戸籍がある。そうイメージすると分かりやすいでしょう。この記録をまとめたものが登記簿(正確には登記記録)で、手数料さえ払えば、赤の他人であっても「登記事項証明書」として内容を取得できます。誰でも見られるからこそ、取引の安全が守られているのです。

登記簿に書かれている3つの情報
登記簿は、大きく分けて次の3つのブロックで構成されています。
表題部……不動産の物理的な情報が記載されます。所在地、地番・家屋番号、構造、床面積など。いわば建物の「身体測定の結果」です。
権利部(甲区)……所有権に関する情報です。誰が、いつ、どんな原因(売買・相続・贈与など)でその不動産を取得したのかが、時系列で積み重なっていきます。
権利部(乙区)……所有権以外の権利です。住宅ローンの抵当権、賃借権などがここに記録されます。
そして「未登記建物」とは、多くの場合、この表題部すら作られていない状態を指します。つまり法務局には、その建物の存在自体が記録されていないということです。
「持っている」ことと「登記されている」ことは別物
ここが最も重要なポイントです。
自分のお金で建てた家は、登記をしていなくても法律上あなたのものです。所有権は、登記をした瞬間に発生するわけではありません。しかし——「自分のものだと他人に向かって主張できるかどうか」は、まったく別の問題なのです。
この「持っている」と「主張できる」のズレこそが、これから紹介するあらゆるトラブルの震源地になります。
法務省が動いた背景|所有者不明建物1000万超という現実
「1000万棟」という数字は、どこから出てきたのか
まず、この数字の根拠を押さえておきましょう。
政府の住宅・土地統計調査と、実際の登記件数を突き合わせると、全国の建物が約6240万戸あるのに対し、登記されていたのは約5160万戸。差し引き1000万戸以上が「登記簿に存在しない建物」ということになります。
法務省はこれを裏づけるため、2025年10月から2026年2月にかけて全国の市区町村に聞き取り調査を行いました。回答した760自治体が報告した約3610万棟のうち、約800万棟が登記未了。実に2割超です。未回答の自治体を含めれば1000万棟を超えると推計されています。政府が2025年6月に閣議決定した規制改革実施計画でも、未登記建物の解消が明記されました。
未登記建物が生まれる典型的な3パターン
① 相続の放置……親が亡くなった後、名義変更をしないまま10年、20年と経過してしまう。もっとも多いパターンです。
② 古い時代に建てられた自宅……昭和期に自己資金だけで建てた家は、金融機関から融資を受けていないため、登記を促す第三者が誰もいませんでした。住宅ローンを組めば銀行が抵当権を設定するために登記が必須になりますが、現金で建てた家には、そのブレーキが働かなかったのです。
③ 増改築・附属建物の申請漏れ……母屋は登記されているのに、後から建てた車庫、物置、離れ、増築部分が登記されていない。法務省の調査でも、住宅本体ではなく増改築部分や倉庫、駐車場が未登記だった事例が報告されています。
コワニ震災復興・再開発・道路整備が止まる社会的コスト
所有者が分からない建物は、その家の持ち主だけの問題では終わりません。
震災で倒壊した建物の撤去、道路の拡幅、駅前の再開発——いずれも所有者の同意なしには進められません。
実際、2011年の東日本大震災では所有者を捜すのに時間がかかり、復旧対応の障壁になったことが指摘されています。
登記官が職権で情報収集する仕組みの検討
こうした状況を受け、法務省は実態調査を進めて原因を把握するとともに、法務局の登記官が職権で所有者に関する情報を収集する仕組みの検討に入ったと報じられています。
裏を返せば、「所有者の自主的な登記に任せていては、もはや追いつかない」という国の危機感の表れといえるでしょう。
未登記建物は「売れない・貸せない・壊せない」の3重苦
ここで、大事な前置きを一つ。
未登記建物は、法律で売買や賃貸、解体が禁じられているわけではありません。理屈のうえでは、どれも可能です。
問題は、実務上「できないに等しい」状態に追い込まれるという点にあります。一つずつ見ていきましょう。
売れない ── 買主が住宅ローンを組めない
住宅ローンを利用する買主は、購入する不動産に抵当権を設定します。ところが、登記されていない建物には抵当権を設定できません。担保として認められないため、金融機関は融資を実行できないのです。
すると買主は、現金一括で購入できる人に限られます。買い手の母数が激減すれば、価格が下がるのは当然の帰結です。仲介業者から「登記してからお持ちください」と、取り扱いを断られることさえあります。


貸せない ── 借地なら「追い出される」リスクすらある
賃貸に出すこと自体は可能です。しかし担保に入れられない以上、リフォーム資金を建物担保で調達することはできません。賃貸経営の入口でつまずくわけです。
そして、さらに深刻なのが借地に建てた家が未登記というケース。
借地借家法10条1項は、借地上に「登記されている建物」を所有していれば、借地権を第三者に対抗できると定めています。逆にいえば、建物が未登記なら、その土地が第三者に売却されたとき、新しい地主に「私には借地権がある」と主張できません。最悪の場合、立ち退きを求められる事態もあり得ます。
借地の上に自己資金で家を建て、そのまま登記していない——実は、これが未登記建物のもっとも危険な形です。
壊せない ── 手続きは簡単。でも「勝手には壊せない」
ここは誤解が多いところなので、正確に説明します。
未登記建物の解体手続き自体は、むしろ簡単です。登記済みの建物なら、解体後1か月以内に法務局へ「建物滅失登記」を申請する義務があります(不動産登記法57条)。一方、未登記建物はそもそも登記簿がないので、消す手続きも必要ありません。市区町村の税務課に「家屋滅失届」を提出すれば足ります。
問題は手続きではなく、「壊していいのか」を証明できないことです。
所有者の許可なく建物を解体すれば、建造物損壊罪(5年以下の拘禁刑)に問われる可能性があります。未登記建物は所有者が公的に記録されていないため、相続人が複数いれば全員の同意を取り付けてからでないと、事実上、解体に踏み切れません。相続人が全国に散らばっていれば、それだけで年単位の時間がかかります。
(なお「拘禁刑」は聞き慣れない言葉かもしれません。2025年6月1日施行の改正刑法により、従来の「懲役」と「禁錮」が拘禁刑に一本化されました。)
なお、家屋滅失届を忘れると、取り壊し済みの建物に固定資産税が課され続けます。これも合わせて覚えておいてください。



登記の有無が資産価値を分ける決定的な理由
「第三者に対抗できない」(民法177条)
民法177条は、不動産に関する物権の得喪及び変更は、登記をしなければ第三者に対抗することができない、と定めています。
「対抗できない」とは、平たくいえば「第三者に向かって『これは自分のものだ』と主張しても、法律上その主張が通らない」ということ。持っているのに、持っていると言えない。それが未登記の状態です。
二重売買で負けるのは、登記していない側
具体例で考えてみましょう。
Aさんの家をBさんが購入し、代金もきちんと支払いました。しかしBさんは登記をせずに放置していた。その間にAさんが同じ家をCさんにも売却し、Cさんが先に登記を済ませてしまった——。
このとき、家の所有権を主張できるのは、先に買ったBさんではなく、先に登記したCさんです。
「先に買った人」ではなく「先に登記した人」が勝つ。これが登記制度の怖さであり、同時に力でもあります。
(なお、Cさんが著しく不誠実な事情のもとで登記を先取りしたと評価される場合には例外的にBさんが保護されますが、極めて限定的なケースです。原則は「登記した者勝ち」と考えてください。)
相続が重なると、相続人はねずみ算式に増える
未登記のまま世代が変わると、権利者は雪だるま式に膨らみます。
子が2人、その子(孫)が4人、さらにひ孫が8人……。50年放置すれば、会ったこともない親戚十数人の同意と実印が必要になる、という事態が現実に起こります。そのうち1人でも所在不明だったり、非協力的だったりすれば、手続きは完全に止まります。
放置のコストは、時間の経過とともに加速度的に膨らんでいくのです。
相続登記は義務化。ただし未登記建物は「別ルート」


相続登記は2024年4月から義務(3年以内・10万円以下の過料)
2024年4月1日、相続登記が義務化されました。
不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に登記を申請しなければならず、正当な理由なく怠った場合は10万円以下の過料の対象になります。
見落としがちなのは、施行前に発生した相続にも適用されるという点です。過去の相続については2027年3月31日が期限。「うちの相続は昔の話だから関係ない」は通用しません。
3年以内に遺産分割がまとまりそうにない場合は、「相続人申告登記」という簡易な手続きをしておけば、いったん義務を果たしたものとみなされます。
ただし、未登記建物に必要なのは「表題登記」
ここが、この記事でもっともお伝えしたい点です。
未登記建物は、実は相続登記の対象になりません。
登記簿そのものが存在しないため、名義を移す「所有権移転登記」ができないからです。
では義務がないのかというと、まったく逆です。不動産登記法47条1項は、表題登記のない建物の所有権を取得した者は、取得の日から1か月以内に表題登記を申請しなければならないと定めています。怠れば、こちらも10万円以下の過料(同法164条)。
つまり、未登記の実家を相続した人にかかっているのは、相続登記ではなく表題登記の義務。しかも期限は1か月以内で、相続登記の3年よりはるかに短いのです。
なお、亡くなった親の名義でいったん登記してから相続人に移す必要はありません。相続人であるあなたの名義で直接、表題登記を申請できます(不動産登記法74条)。余計な登録免許税を払わずに済みます。
住所・氏名変更登記も2026年4月から義務化済み
2026年4月1日からは、所有者の住所や氏名が変わった際の変更登記も義務になりました。変更から2年以内に申請しなければならず、正当な理由なく怠れば5万円以下の過料です。施行前の変更も対象で、こちらは2028年3月31日が期限となります。
ただし、負担軽減策も用意されています。「スマート変更登記」といって、事前に法務局へ検索用情報を申し出ておけば、以後は登記官が職権で変更登記をしてくれる仕組みです。申出の手数料は無料。引っ越しのたびに手続きする手間から解放されるので、活用しない手はありません。
過料は「即座に科される」わけではない
なお、期限を1日過ぎたら自動的に10万円を取られる、というものではありません。
まず登記官が相当の期間を定めて申請を催告し、それでも正当な理由なく応じない場合に、管轄の地方裁判所へ通知される。そこで初めて、裁判所が過料を科すかどうかを判断します。相続人が極めて多い、遺言の有効性が争われている、重病、経済的困窮といった事情があれば「正当な理由」として認められます。
とはいえ、催告書が届いてから慌てるのは得策ではありません。
自分の家が未登記かどうか調べる方法【3ステップ】
STEP1|固定資産税の納税通知書を確認する
毎年届く納税通知書の課税明細を見てください。家屋番号の欄が空欄になっていたり、「未登記」と記載されていたりすれば、その建物は未登記の可能性が高いといえます。
ここで注意したいのが、未登記でも固定資産税は原則としてかかるという事実です。市町村が独自に家屋調査を行い、課税台帳に登録しているためで、「税金を払っている=登記されている」ではありません。この誤解が、未登記の発見を何十年も遅らせてきました。
(なお法務省の調査では、逆に未登記建物の課税漏れが生じている恐れも指摘されています。)
STEP2|法務局で登記事項証明書を取得する
最も確実なのは、法務局で登記事項証明書を請求することです。窓口・郵送のほか、オンラインでも請求できます。手数料は書面請求で1通600円、オンライン請求なら490〜520円程度。
請求しても証明書が発行されない場合、それは「登記記録が存在しない」ということ。つまり未登記が確定します。
【補足】2026年2月に始まった新制度も知っておこう
2026年2月2日から「所有不動産記録証明制度」がスタートしました。特定の人が全国に所有する不動産を、法務局が一覧化して証明してくれる制度です。手数料は検索条件1件・1通あたり書面請求で1,600円、オンラインなら1,470〜1,500円。
相続財産の把握には非常に強力なツールです。ただし、大きな注意点があります。この証明書に載るのは「所有権の登記がされている不動産」だけ。未登記建物は、そもそも記載されません。
だからこそ、納税通知書との突き合わせが必要なのです。証明書に出てこない建物が課税明細には載っている——それは、未登記のサインです。
STEP3|未登記だった場合にやるべきこと
未登記が判明したら、進める順序があります。
① 市区町村へ「未登記家屋所有者変更届」を提出する(相続した場合)
固定資産税の納税義務者を変更するための届出です。ただしこれは税務上の手続きにすぎず、法的な所有権は確定しません。あくまで第一歩と考えてください。
② 法務局へ「建物表題登記」を申請する
土地家屋調査士の担当領域です。報酬の目安は8〜12万円程度。なお表題登記自体に登録免許税はかかりません。
③ 続けて「所有権保存登記」を申請する
司法書士の担当領域です。報酬は3〜7万円程度に加え、登録免許税(固定資産税評価額の0.4%、住宅用家屋証明が得られれば0.15%)がかかります。
トータルの目安は10〜15万円程度。ただし建築確認書類が残っていない古い家や、相続が数代にわたっているケースでは、20万円を超えることもあります。
「10万円の過料を避けるために15万円払うのか」と思われるかもしれませんが、話は逆です。登記をしなければ、その家は売ることも担保にすることもできない。数百万円、数千万円の資産が、凍結されたままになるのです。





まとめ|登記は「面倒な手続き」ではなく「資産を守る保険」
最後に、この記事の要点を整理します。
- 登記は所有権を生み出す制度ではないが、第三者に「自分のものだ」と主張するための唯一の手段である
- 未登記建物は、売却・担保設定・解体のすべての場面で壁にぶつかる。借地上の家であれば、立ち退きリスクさえ抱えている
- 未登記建物にかかるのは相続登記ではなく「表題登記」の義務。期限は取得から1か月と、実は相続登記よりはるかに短い
法務省が「1000万棟」という数字を前についに動き出した今は、自分の家や実家の登記状況を確認する絶好のタイミングです。
まずは、引き出しにしまった納税通知書を1枚めくるところから始めてみてください。その5分が、10年後の家族を救うかもしれません。
※本記事の内容は一般的な情報提供であり、個別の法的判断につきましては有資格の専門家にご相談ください。








