マンションは下落、オフィスは逼迫|東京不動産で起きている二極化の正体

2026年7月、東京の不動産市場から正反対のニュースが相次ぎました。ひとつは、都心のオフィス空室率が6年ぶりに1%台へ低下したという「逼迫」の報せ。もうひとつは、首都圏の中古マンションの成約価格が2カ月連続で前年を下回ったという「変調」の報せです。

同じ「東京の不動産」でありながら、なぜ真逆の方向に動くのでしょうか。公表されたばかりのデータをもとに、その構造を読み解いていきます。

もくじ

東京都心のオフィス空室率が6年ぶりに1%台へ

三鬼商事が公表した都心5区の最新データ

オフィス仲介大手の三鬼商事が7月9日に公表した2026年6月時点のデータによると、東京ビジネス地区(都心5区=千代田・中央・港・新宿・渋谷)の平均空室率は1.99%となりました。前月比0.08ポイントの低下で、2020年6月以来、およそ6年ぶりに1%台に入ったことになります。

1年前の2025年6月は3.37%でしたから、この1年で1.4ポイント近く下がった計算です。区別に見ると、渋谷区が1.11%、千代田区が1.26%と、すでに1%そこそこの水準。港区2.16%、新宿区2.57%、中央区2.84%が続きます。

「1%台」がいかに異常な水準か

オフィス市場では、空室率5%程度が「需給均衡の目安」とされています。借り手と貸し手の力関係がおおむね拮抗する水準、という意味です。1.99%はその半分以下にあたります。

さらに実態に近いのは、新築ビルを除いた「既存ビル」の空室率です。こちらは1.80%まで下がっています。いま都心では「移転したくても、まとまった床が見つからない」状態が常態化しつつあるということです。

なお6月は新築ビルの空室率が13.09%へ上昇していますが、これは満室のビル4棟が竣工から1年を過ぎて既存ビル区分へ移った結果です(三鬼商事の区分では、竣工12カ月以内が新築ビル、13カ月以前が既存ビル)。需要が弱まったことを示すものではありません。

コワニ
オフィスを探すのがこんなに大変な時代になっていたとは、と驚いた方もいるのではないでしょうか。

募集賃料は29カ月連続の上昇

需給が締まれば、当然ながら賃料は上がります。6月の都心5区の平均賃料は1坪あたり22,993円。前年同月比10.14%(2,116円)の上昇で、月次では29カ月連続の上昇となりました。

区別では渋谷区が25,765円、千代田区が24,504円と2万5,000円前後。港区23,340円、中央区21,057円、新宿区20,166円と続きます。1年で1割の値上がりというのは、賃貸市場としてはかなり急な部類です。

なぜ、オフィスだけが逼迫しているのか

人手不足と「採用のためのオフィス」

背景として大きいのが、人手不足です。人材の確保と定着が経営の最重要課題になるなかで、働く環境そのものが採用力を左右するという認識が広がりました。

立地の良い駅近ビル、清潔で開放感のあるフロアは、求人票に書ける条件になります。企業にとってオフィスは、削るべき「固定費」から、人を集めるための「投資」へと位置づけが変わりつつあるのです。この発想の転換が、多少の賃料上昇なら受け入れるという行動につながっています。

出社回帰と、交流スペースを増やす動き

もうひとつが、出社を前提とした働き方への揺り戻しです。コロナ禍でフロアを縮小した企業が、社員同士の偶発的な会話や部門を越えた交流の価値を再評価し、ラウンジやカフェスペースといった「交流の場」を設ける動きが目立っています。

こうしたスペースは、机を並べるだけのフロアより余裕のある面積を必要とします。同じ社員数でも、企業が求める床は以前より広くなりやすい。オフィス獲得競争に拍車がかかっている一因は、ここにもありそうです。

新しい床が簡単には増えない

供給側の事情も重なります。6月は新築ビルの竣工がありませんでした。そのうえで、ビル内の増床や分室(サテライト拠点)設置といった成約が解約を上回ったため、都心5区全体の空室面積はこの1カ月で約6,900坪も減っています。

さらに、建築費の高騰が新規供給の重荷になっています。資材費と人件費の上昇で採算が合わず、一部の再開発計画では見直しや着工の後ろ倒しが起きているのが実情です。加えてオフィスビルは、計画から竣工まで数年単位の時間がかかります。いま「床が足りない」とわかっても、明日建つわけではない。

民間調査機関の予測でも、2027年以降は新規供給が限られ、タイトな需給が続くとの見方が示されています。この逼迫は、当面ほぐれにくいと考えられます。

一方で、住宅市場に出ている変調のサイン

まず動いたのは「価格」ではなく「取引」だった

東日本不動産流通機構(東日本レインズ)が7月10日に公表した2026年6月のデータでは、変化はまず取引量に表れています。

首都圏の中古マンションの成約件数は4,241件で、前年同月比1.3%減と3カ月連続の減少。なかでも東京都区部は1,716件、前年同月比12.8%減と、6カ月連続で減っています。2桁減となっているのは都区部だけで、多摩・埼玉・千葉・神奈川はいずれも前年を上回りました。

売れ残りも増えています。在庫件数は45,995件、前年比3.5%増で4カ月連続の増加です。

そして価格。成約㎡単価は82.64万円で前年同月比0.8%の下落、平均成約価格も5,208万円とわずかに前年を下回りました。前年割れは、73カ月ぶりの下落となった5月に続き2カ月連続です。

売り手と買い手の「ワニの口」が開いている

もっとも象徴的なのは、売り手と買い手の価格認識のズレです。

6月時点で売り出し中の在庫物件の平均㎡単価は116.54万円。前年比28.6%も上昇しています。ところが実際に成約した㎡単価は82.64万円。売り手の希望価格だけが上がり続け、成約価格がついてこない——この2本の線が離れていく形は、しばしば「ワニの口」と呼ばれます。

ただし、この差をそのまま「3割引ける」と読むのは誤りです。在庫には高額物件が売れ残りやすく、成約した物件とは対象がそもそも違うため、単価の差は値引き率ではありません。ここから読み取れるのは、あくまで「売り手の強気な値付けが、そのままでは通りにくくなっている」という事実です。

コワニ
たしかに最近の売り出し価格は強気だなと感じていた方も、意外と多いのではないでしょうか。

ただし「マンションが値下がりした」と単純には言えない

ここは正確に押さえておく必要があります。

6月の成約㎡単価を地域別に見ると、東京都区部がプラス1.5%、多摩がプラス5.5%、埼玉がプラス6.1%、千葉がプラス20.5%、横浜・川崎がプラス7.8%、神奈川県他がプラス5.5%。6地域すべてが前年を上回っているのです。

それでも首都圏平均がマイナスになったのは、最も単価の高い東京都区部の成約シェアが下がったためです(前年の45.8%から40.5%へ)。つまり平均を押し下げたのは「値下がり」ではなく、「取引の中心が都心から郊外へ移ったこと」でした。

では都区部は安泰かというと、そうでもありません。都区部の㎡単価の伸び率は、1年前の前年比プラス14.8%から今回はプラス1.5%へと、ほぼ止まりかけています。件数は2桁減。正確に言えば、いま起きているのは値下がりというより「都心の需要が細り、価格上昇が失速している」という現象です。

なお新築マンションは、不動産経済研究所の調査で2025年度の首都圏平均が9,383万円と5年連続で最高値を更新しており、こちらはまだ上昇局面にあります。

二極化の正体は「誰がその費用を払うのか」の違い

オフィスの原資は企業収益、住宅の原資は家計

なぜ逆方向に動くのか。答えは意外にシンプルです。費用を負担する主体が、まったく違うからです。

オフィス賃料を払うのは企業です。連合が7月3日に公表した2026年春闘の最終集計では、賃上げ率が5.01%と3年連続で5%を超えました。組合員300人未満の中小組合でも4.69%です。人手不足を背景に、企業は人材確保のためのコストを払える状態にあります。

賃料が1割上がっても、それを採用力や定着率の改善で回収できるなら、支出は正当化されます。加えて、一般に法人が支払う事業用の賃料は損金として費用処理されます。税引き後の手取りから返済する家計の住宅ローンとは、負担の意味合いがそもそも違うのです。

家計を直撃したのは金利だった

一方、マンションを買うのは家計です。そして家計を直撃したのが金利でした。

日本銀行は2026年6月の金融政策決定会合で、政策金利を0.75%から1.00%へ引き上げました。1%という水準は約31年ぶりです。

借入金利が上がれば、同じ返済額で借りられる金額は減ります。毎月12万円・35年・元利均等・ボーナス返済なしという条件で試算すると、金利0.5%なら約4,620万円ですが、金利1.0%では約4,250万円。差はおよそ370万円です(返済額から逆算した単純計算であり、銀行の審査上の借入可能額とは異なります)。

年収が変わらないまま、買える物件のグレードだけが一段下がる。価格が高止まりしているところにこれが重なれば、買える人の数そのものが減ります。都区部の成約件数が2桁減で推移しているのは、その表れと読むことができます。

なお住宅ローンの変動金利については、一部の民間試算で「2026年秋以降に各行の引き上げが広がる」との見方も出ていますが、時期や幅は銀行によって異なります。

需要を決める変数が、そもそも別物

整理すると、オフィスは企業業績と賃上げに支えられ、住宅は金利と家計の返済能力に縛られています。この2つは、たまたま同じ「不動産」と呼ばれているだけで、需要を決める変数がまるで違うのです。

企業収益が伸びる限りオフィス需要は落ちにくく、金利が上がる限り家計の購買力は圧迫される。いま起きている二極化は、この構造から自然に導かれる帰結だといえます。

この二極化から、個人は何を読み取れるか

住宅購入を考えるなら「在庫」と「成約件数」を見る

購入を検討している人にとって重要なのは、価格そのものよりも「在庫件数」と「成約件数」です。

在庫が増え、成約が減っている局面では、売り手の価格設定が市場の実勢から離れている可能性があります。売り出し価格に慌てて飛びつく必要は薄く、ひとつの物件をじっくり見極める時間的な余裕は、以前より生まれていると考えられます。逆に、在庫が減り成約が増え始めたら、そこが潮目の変わり目です。

コワニ
💬 価格の数字だけでなく、こうした「動き」の部分も一緒にチェックしていきたいところですね。

投資では「誰の支払い能力に乗っているか」を見る

不動産に投資する場合も、この視点はそのまま使えます。

オフィスビルの賃料収入は、企業の支払い能力——つまり業績と賃上げ余力に乗っています。賃貸住宅の賃料収入は、家計の支払い能力に乗っています。分譲事業なら、家計の購買力と金利が業績を直接左右します。同じ「不動産」でも、収益の源泉となる財布が違うのです。

一方で、金利上昇はどのセクターにも共通の逆風になります。借入コストが増えるうえ、物件価格の評価にも影響するからです。「不動産市況が良い/悪い」とひとくくりにせず、その収益が誰の財布から出ているのか、そしてその財布はいま膨らんでいるのか縮んでいるのか。そこを確認することが出発点になります。

※本記事は公表データに基づく市況の解説であり、特定の物件や金融商品の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。

「東京は上がる/下がる」という議論の危うさ

「東京の不動産はまだ上がる」「いや、もう天井だ」——こうした議論がいつまでもかみ合わないのは、話し手がそれぞれ違う市場を見ているからです。

オフィスを見れば明確な上昇局面。都心の中古マンションを見れば、価格の伸びが止まりかけ、取引が細っている局面。どちらも同じ2026年6月の、同じ東京のデータです。「東京の不動産」という主語が、大きすぎるだけなのです。

まとめ|同じ東京でも、市場ごとに別のルールが働いている

2026年6月のデータが示したのは、東京の不動産が決して一枚岩ではないという事実でした。

オフィスは空室率1.99%まで逼迫し、賃料は29カ月連続で上昇。一方の中古マンションは、都心を中心に取引が細り、在庫が積み上がり、価格の伸びが止まりつつあります。

判断を誤らないために必要なのは、「不動産」という大きな主語をいったん解体することです。その費用を払っているのは誰なのか。そして、その人の支払い能力は、いま増えているのか、減っているのか。そこを見れば、目の前の数字が何を意味しているのかが見えてきます。


参考・出典

  • 三鬼商事「オフィスマーケット(東京ビジネス地区)」2026年6月時点/2026年7月9日公表
  • 東日本不動産流通機構「月例速報マーケットウオッチ・サマリーレポート<2026年6月度>」/2026年7月10日公表
  • 不動産経済研究所「首都圏 新築分譲マンション市場動向 2025年度」/2026年4月20日公表
  • 日本銀行「金融政策決定会合」(2026年6月15・16日開催)
  • 日本労働組合総連合会(連合)「2026春季生活闘争 回答集計結果(最終集計)」/2026年7月3日公表
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